第3話 「勇者抽選会」


『勇者抽選会』

その日は朝早くから人々の騒がしい声と大きな花火の音が
城下町中に響き渡っていた。

「う・・・うぁ・・・」

誰でも何事かと飛び起きそうな騒音がする中、うなされながらも
必死に眠りにつこうとしている者がいた。
寝相が悪いのか髪の毛はぼさぼさ、掛け布団はベッドにはなく
部屋の中央まで飛ばされている。

「や・・・それは、それだけはやめ・・・」

どうやら悪夢を見ているようだ。
よだれをたらしながら枕を抱え、何かから逃れようとしているのか
右手を必死に伸ばしている。
しょげた尻尾と垂れた犬耳が何とも情けない。

「・・・ミノリゴ!何時まで寝てるんだよ!!」
「ひぃ!!!?」

ばぁん!と勢い良く部屋の扉が開いてそこから獣人の少年が入ってきた。
その音にようやく悪夢から開放されたのか、ミノリゴと呼ばれた少女は
奇怪な声を上げて飛び起きた。

「・・・ぁ、ありがと起こしてくれて・・・おかげで助かったよ」
「助かったぁ?お前また何かに追い掛けられる夢でも見てたのか?」
「うん・・・毎日毎日やんなっちゃうよ」
「・・・アホ」

いつものごとく、起こしに来た少年を呆れさせると
一旦少年に部屋の外に出てもらいミノリゴは急いで服を着替えた。
フードのついた袖なしのコートを羽織り
半ズボンから出た足には何も履かない。
尻尾や耳と同じ茶色の毛で覆われている足には何かを履く必要なんてないと
考えているからだ。
最後に右手に皮製のブレスレットをはめて、着替えは完了する。
これがミノリゴのいつもの服装だった。

「おまたへ~。で、今日は何の用?仕事は今日休みのハズだけど」
「・・・お前、もう昨日言ったこと忘れたのか?
 今日は風王様が主催した『抽選会』に行くって決めたじゃないか」
「あ、そだっけ」

部屋から出てきたミノリゴはまだ眠たそうに喋りながら大きなあくびをする。
少年は神経質なのかそれともミノリゴがマイペース過ぎなのか、イライラしていた。

「働いている者なら誰でも一回は抽選に参加できてしかも必ず景品が貰える抽選会なんだ。
 行きそびれたら損なんだぞ!わかってんのか?」
「わかってるよぉ。そんな言い方しなくてって・・・うぅ」

少年に散々罵倒されて、やっと目が覚めたのか
ミノリゴは一回背伸びをした。それから部屋の戸締りをすると
少年に連れられて外に出た。


ミノリゴは風の王国の城下町に住む、ごく普通の国民だった。
武術に長けている訳でも、魔術に秀でているわけでもなく
むしろ劣っていると言った方が正しかった。
何をやっても上手く行かずドジばかり踏んで、その事がミノリゴを自信喪失気味に
させている節もあった。
身寄りはなく、共同のアパートに住みながら
毎日パンをこねるのに使う上質の水を運ぶ仕事で生計を立てていた。
そんな彼女達にとって、風王が設けた「抽選会」は年に数度あるお祭り並に心ときめくものだった。

「しかし、何で風王様急にこんな事やろうと思ったんだろ?」
「・・・また出た。ミノリゴの『何で』。別に良いじゃないかそんな事考えなくてもさぁ」
「だって、気になるんだもん。仕方ないじゃないか」
「変なところで知りたがりだよなぁ、お前」

人ごみを掻き分けながら駆け足で抽選会場に向かう二人。
その顔は期待に満ち溢れていた。

その抽選会が、何を意味しているのか知らずに。


「陛下、予定通り民のほとんどが抽選会にやってきております」
「そうか。では、手筈通りに頼むぞ」
「・・・はっ」

抽選会を城の窓から見ていた風王のもとに、側近が報告をする。
風王は表情を変えることなく側近に指示をする。


――――そう、この抽選会は風の王国の民の中から勇者を見つける為に
仕組まれたものなのだ。
先刻風王に魔導士が耳打ちした会話はこうだった。

「抽選会を開き、国中の民を集め、欠片の入った抽選箱を引かせるのです。
 そして、この欠片を引き当てた者こそが風の守護石に選ばれた"勇者"・・・」
「なるほど・・・少々強引だが大丈夫なのか」
「大丈夫です。お供を一人ぐらいつけてやればきっと上手く行きます」

そして、風王は魔導士に言われた通り3日後に抽選会を開いた。
民を騙していると少し悩みはしたが、これも全て守護石を取り戻すためと自分に言い聞かせた。
窓越しから外に目をやると、人々が抽選会場に大勢やってくるのが見えた。
風王はそれを険しい顔で見つめながら、事が起こるのを見守っていた。

「次の方、どうぞ」
「ほらっ、ミノリゴの番だぞ」
「あ、うん・・・」

長蛇の列だなぁと思って並んでいたが、以外にも早く抽選の順番が回ってきた。
ドキドキしながらミノリゴは無数の小さな玉が入っている
五角形の箱(ガラポンと言うらしい)をゆっくりと回した。

ガラガラ・・・

何回か回していると、コロリと箱から玉が出てきた。
ガラポンの前に立っていたおじさんがその玉をじぃっと見つめる。

「おぉ~~~~~あたぁ~~~~りぃ~~~~~!!!!」
「ぅぎゃぁっ!!?」

すると突然手にしていたベルを軽快に鳴らすとおじさんは大声で叫んだ。
ミノリゴはびっくりして小さく悲鳴を上げた。

「おめでとうっ、嬢ちゃん!特選だよ!!!」
「え・・・・・・と、とととととと特選っ!!?い、今の玉が!?」
「そうだよっ、特選は『勇者』の称号が風王様から与えられるんだ!」
「・・・ぇ?」

おじさんの言葉に周りが一斉にどよめいた。
そして、各地で歓声が上がり人々は「勇者誕生」と口にし、ミノリゴの方を見た。

「やったなミノリゴ!勇者だって!!」

連れの少年も他の皆と一緒になってミノリゴの背中をバシバシ叩いた。
しかし、当人のミノリゴは状況がつかめず、ただぼんやりとガラポンから
出てきた薄緑のいびつない石ころを見つめているだけだった・・・。



TO BE CONTINUED



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