第2話 「その国を救う者」
守護石が奪われてから夜が明け、正午になり、また星が見え出した風の王国。
その国の城の薄暗くなった王の間で男が頭を抱え込んで玉座に座っていた。
「・・・ぐぬぅ」
風王は途方に暮れていた。
威厳の塊のような男はもはや疲れきった中年の男と化していた。
そばにいた側近が心配そうに風王に声を掛ける。
「陛下・・・少しは休まれてはどうです?相当お疲れのようですよ」
「ならぬ・・・こうしているうちにも少しずつ世界中の大気が澱んでいっていると思うと
眠るわけにはいかぬ・・・しかし、あぁ・・・一体どうすればよいものか」
風の守護石が大魔王:ワラによって奪われた後、風王は一睡もせず対策を練っていた。
が、名案は浮かばず途方に暮れていたのだ。
そして、その風王に仕える側近達も気が気じゃなかった。
誰よりも国と民の事を思い、それ故一人で考え込んでしまう国王の力に
ならなくてはとせかせかと何人もの側近が王の間を出たり入ったりしていた。
だが、今まで戦火に見舞われる事なく平和に過ごしてきた風の王国にとって
このような事態は前代未聞な事。
皆が皆どうすれば良いのか分からずただ、闇雲に動いているだけに等しかった。
「陛下」
そんな状況の王の前に、青緑の全身を包むようなローブを着た男が現れた。
「・・・誰だ?」
「陛下の力になれるかもしれないと思って我々が呼んだ国一の占い師と謳われる魔導士です」
不審そうに問う風王に、側近がすかさずフォローする。
「私の占いが陛下の力になればと思い、馳せ参じました。この方法を用いれば
この国の危機を救う『勇者』を見つけ出すことが出来るでしょう・・・」
「何!?それは真か!!?」
魔導士の"勇者"という言葉に喰らい付くかのように反応し玉座から乗り出す風王。
すると魔導士は懐から小さな・・・豆粒程度の石を取り出した。
半透明の緑色をしている小さな水晶のようだった。
「これは、風の守護石の欠片です。風の守護石と同様の力を持っています・・・
これが勇者になるべき者を、見つけ出してくれるはずです」
「ほぉ・・・」
風王は真剣な表情で魔導士の話を聞く。
魔導士はゆっくりと、聞き取りやすい声で淡々と説明を続ける。
「・・・して、その勇者は一体誰なのだ?」
「それはこの欠片が私の手を離れ、その者の手に渡るまでわかりません」
「どういう事だ?」
「この欠片自体に、力はありません。しかし、勇者になるべき者の内に秘めた力に反応します。
その者とこの欠片が引き合うのです・・・」
風王はそれを聞いて、しばらく考え込んだ。
別に魔導士の話を疑っているわけではない。
真の事を言っているのだろう事は誰の目から見てもわかる。
しかし・・・
「そなたの言う事は承知したが、問題は・・・勇者となるべき者をどうやって見つけるかだ。
その欠片が、勇者の下へ我々を導いてくれる訳ではないのだろう?」
そう、魔導士の話が正しいなら
勇者の手元にこの欠片を持っていかなければいけない。
どこにいるかもわからない勇者を、どうやって探せばいいのか・・・。
「魔導士よ、その勇者がどこにいるかぐらいは見当がつかぬのか?」
「わかりません・・・しかし、この国の民であることは確かです・・・」
「ふむ・・・しかし、どうやってその中から見つけ出すか・・・」
苦悶の表情を見せる風王に魔導士は口を開いた。
「失礼ながら・・・私目に案がございます」
そう言うと魔導士は風王に耳打ちした。
風王はそれを真剣に聞き取ると、少しの間腕をくんで考えた。
「ふむ・・・それなら勇者となるべきものを見つけ出せるかもしれんな・・・よしっ」
王は魔導士に礼を言うと、側近を集めて指示をし始めた。
―――3日後、風の王国で大規模な「抽選会」が実施されることになる。
TO BE CONTINUED
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