第7話 「出会い」
「すまない・・・」
夕刻も近い森の中
空色のマントと白銀の鎧に身を包んだ男が
剣を鞘に収め、足元に倒れているモンスター達にそっと手を合わせた。
白い肌のせいでより目立つ真っ赤なマフラーが風に吹かれてなびいている。
「ここ最近モンスターが人を襲いに人里まで現れるようになった・・・」
モンスターだけではない、風までもがおかしくなっている・・・。
風は色々な物を運んでくる。
季節を運び、雲を運び、幸せを運んだりもする。
風は全てのものにとって大切なもの。
しかし、今、風は災いをも運ぶようになってしまっている・・・。
これも風の守護石が大魔王ワラに奪われたせいなのか・・・。
守護石がこの世界の均衡を保っていたという伝説は、どうやら・・・本当だったようだ。
「早く守護石が戻ってくればいいのだけど・・・」
そう言えば、先日国の抽選会で、大魔王ワラを討伐する『勇者』が選ばれていたな。
さっきまで護衛をしていた村でも勇者への期待はすごいものだった。
「いったい勇者とはどんな人物なのだろうか・・・」
男がきっと、凄腕の人物なのであろうと想像していたら・・・。
「ひぇえええええっ!!!!」
両手に木の枝を抱えた子供がモンスターに追いかけられてこっちにやってきた。
石につまずき、持っていた枝が落ちて、その落とした枝につまずいてこけた・・・。
ずいぶん、器用な子だな・・・って関心してる場合じゃなかった!!
男はすぐつまずいた子供の前に立つと、剣を構え、きっとモンスターを睨み付けた。
その眼光の鋭さでモンスターは瞬時に自分では敵わない事を察知し、恐れをなして逃げ出した。
「し、死ぬかと思った・・・」
ふぃーと、安堵のため息をついた子供は、男の方に駆け寄り、深々とお辞儀をした。
「助けてくれてありがとう!オレ、ミノリゴって言うんだっ!
ヒビキに頼まれて焚き火にくべる薪を集めてたら・・・うぇえ・・・」
ミノリゴ、と名乗ったその子供はモンスターに襲われた時の事を思い出したのか
急にびくつきペタン、とその場に座り込むと、メソメソ泣き出した。
泣きながらもお礼を言ってくるものだからなんだかこっちが申し訳なくなってしまった。
「もう、大丈夫だよ。あのモンスターはここらには普段はいないから
きっと迷っていて気が立ってただけなんだろう。次は、襲われることはないよ」
守護石が奪われた今、絶対に無いとは言えないのだけども・・・。
「ほんと?なら良かった・・・ほんとにほんとにありがとう・・・。
あ・・・剣士さん、お名前は?」
「僕は、コナユキだよ」
コナユキと名乗ったその男はにっこりとミノリゴに微笑んだ。
「コナユキ・・・ユキ?だから肌も白いの?」
「いや、そうじゃないけど・・・」
「でも白いから雪だるまさんだね!雪だるさんって呼んでいい?」
「雪だ・・・構わないけど・・・」
雪だるまかぁ・・・。
これまで会った人は必ず肌の白さの事を聞かれてきてたけど
雪だるまと言われ、おまけのあだなのつけられたのは初めてだった。
微笑ましいな、と思った反面物凄く嫌な人物の事を思い出してぞっとした。
「あらためて・・・雪だるさん、本当にありがとうございました」
ミノリゴはまた深々とお辞儀をしてしどろもどろにお礼を言った。
「・・・そういえばミノリゴ
さっき、ヒビキに言われて薪を集めてた、って言ってたけど、戻らなくていいのかい?」
「えっ・・・木の枝・・・・・・あああぁあああっ!!」
いきなり叫びだしたかと思ったら、ヒビキに怒られる、と泣きながら消えていった。
・・・と思ったら道端でミノリゴはべしゃぁとこけた。
心配で気になったコナユキは慌ててミノリゴの後を追いかけた。
「遅くなってごめん・・・・・・ヒビキ」
「構いませんよ、もうご飯は出来上がりましたから」
ヒビキは笑顔で言った。
それはあまりにも不気味すぎるぐらいの笑顔だった。
「うぇええええ・・・!!」
尻尾を抑えてミノリゴは震えている。よっぽどこの女性が恐ろしいのだろう。
そんなミノリゴに構わず、ヒビキはミノリゴの後ろに立っていたコナユキの方を見て
「そちらの方は・・・どなたですか?」
にっこりと笑ってはいながらも、その右手は杖に手がかかっている。
警戒している証拠だ。
「ヒビキ、この人は雪だるさんだよ、さっき助けてもらったんだ」
「雪だるさん?・・・珍しい名前ですね」
「雪だるさんはあだ名だよ。ほんとは・・・ええと、ゆき・・・?粉・・・?」
「コ・・・コナユキです」
ヒビキは警戒を解いたのか杖を置き、コナユキに近寄り
ミノリゴを助けてくれた事にお礼を言った。
「・・・あれ?雪だるさん顔が赤くなってるよ?」
「あら、具合でも悪いのですか?」
「えっ!!これは・・・その・・・」
コナユキはぱっと自分の顔を手で覆い、もごもごと何か言いながらヒビキから少し離れた。
ヒビキと距離をとって、ようやくコナユキの顔は元の白さに戻った。
「お、俺・・・赤面症で・・・ごめん」
「セキメンショウ?」
「はずかしがりってことですよ、ミノリゴ」
女性に慣れてなくて赤面するなんて、流石に言えないな・・・。
落ち着きを取り戻したコナユキは何とか赤くなった原因をそこを省いて説明した。
「コナユキさん、大したお礼もできませんが・・・夕飯でもどうですか?」
「え・・・でも」
「一緒に夕ご飯食べようよ~っ」
ちょうどぐるる・・・と腹の虫も鳴き、コナユキはその言葉に甘えることにした。
夕食を食べ終わるとあたりはすでに暗くなっていた・・・。
「コナユキさんは村の護衛兵なのですね」
「専属ってわけではないから・・・護衛兵というよりは傭兵だけどね」
「じゃあ雪だるさんは、人の護衛もするの?」
「そうだけど?」
「なら、ぜひオレたちの護衛をしてくれない?」
うるる、とミノリゴが涙目でコナユキを拝み、護衛を依頼した・・・が
「駄目です、私達にそんなお金ありませんよ」
そう言ってヒビキは反対した。
ミノリゴはポケットの中からごそごそと何かを取り出して
「雪だるさん、これでどうかお願いします!!」
そう言ってミノリゴは財布をひっくり返した、小銭がジャラジャラとコナユキの前で落ちていく。
コナユキの目の前に小銭の山が出来る・・・その金額は食事一食分あるかどうかだった。
「世の中それだけのお金で護衛を引き受けてくれるお人好しはいません!!」
ヒビキがそう言って、ミノリゴにお金を戻すように言った。
ミノリゴはしゅん・・・と落ち込んで、小銭を拾いはじめる。
コナユキも小銭を拾うのを手伝って財布に入れてあげる。
小銭を全部入れ終わるとミノリゴは下を向いたままだった。
「諦めてくださいミノリゴ」
「だってだって・・・」
ヒビキにそう言われてミノリゴは涙を流していた。
コナユキは、そんなミノリゴを見ているのが辛くなった。
その時に、ある口の悪い友人に言われた言葉をコナユキは思い出した。
『おまえはお人好し過ぎるんだよ!!』
・・・自覚は、している。
だがこればかりは治りそうもない・・・。
『でも、それでいいんじゃないか?』
『お前がしたいと思ってやるなら、損にはならないと思うぜ』
『(俺は金貰えないなら、絶対にやらないけどな)』
(・・・・・・)
コナユキは決心した。・・・もともと迷いなどなかった。
「お金なら後でいい、それに値段はそちらで決めてもらって構わないよ」
「え・・・そ、それじゃ・・・」
「あぁ、僕でよければその依頼を引き受けよう!!」
今まで泣いていたミノリゴがぱっと表情を変え、はしゃぎだした。
「本当によろしいのですか?あなたにとって損をする事になりますが・・・」
ヒビキは心配そうにコナユキを見る。
コナユキは赤くなった顔をまた手で覆いながら答える。
「困っている人を放って置けない性格なんでね
それに、ミノリゴの護衛はヒビキだけじゃ心配じゃないかな?」
たしかに・・・とヒビキは少し呆れたように呟いた。
「あなたはお人よしすぎるみたいですね」
「自分でもどうしようもないほどにね」
「まぁ、こちらとしては助かります・・・宜しくお願いしますコナユキさん」
「これからもよらしくね、雪だるさん♪」
こうしてコナユキはミノリゴとヒビキの旅に護衛としてついて行く事になった。
この時コナユキはミノリゴが勇者であることは知らない・・・。
「そういえば雪だるさんはヒビキと話す時は顔が赤くなるのに
オレと話す時は赤くならないの!?」
TO BE CONTINUED
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